ビジネスの場では、自社・自分に不利な依頼や、どうしても応じられない要望が届くことがあります。そのようなシーンで、いかに相手に失礼なく、かつ適切な断りの意志を示すかはとても重要です。「できかねます」は、ビジネスメールや電話・対面での会話において、相手に対し丁寧に断りを伝える代表的なフレーズとして用いられます。
しかし、その表現が持つニュアンスを正しく理解せずに使ってしまうと、相手に冷たい印象を与えたり、失礼だと誤解される可能性もあります。そこで本記事では、「できかねます」の正しい意味や使い方、また注意点や代替表現までを総合的に紹介していきます。この記事を通じて、円滑なビジネスコミュニケーションを築くためのヒントを得ていただければ幸いです。
目次
「できかねます」は、「するのが難しい」「対応が困難だ」という意味合いを、より丁寧かつ遠回しに表現した敬語です。「~かねる」という言葉は古語・文語的表現として「~することができない」という状態を表しており、「いたしかねる」「受けかねる」「承りかねる」など、同様の構造を持つ表現が数多く存在します。
このように、ビジネス文書やフォーマルな場でよく使われる「できかねます」ですが、日常会話で使われることはあまりありません。「できません」というストレートな言葉よりもやわらかな印象を与えますが、同時にやや堅苦しい敬語表現として受け止められることも多々あります。
「できかねます」は、相手からの依頼や要望に対して引き受けることが難しい、もしくは実現できないことを丁重に伝える表現です。「残念ですが…」「あいにくですが…」などの言葉と組み合わせることで、相手の感情に配慮しつつ断ることができます。
「できかねます」は「できません」の丁寧・遠回しなバージョンと捉えがちですが、実際には以下のような違いがあります。
このように、ビジネスシーンのフォーマル度合いによっては「できません」より「できかねます」を使う方が適切と考えられています。
納期の要望を断る場合
件名:納期短縮のご要望について ○○株式会社 □□部 △△様 いつもお世話になっております。▲▲株式会社の山田です。 先日は納期短縮のご要望をいただき、誠にありがとうございます。 大変恐縮ではございますが、現在の生産ラインの都合上、これ以上の納期短縮は対応できかねます。 何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 ーーーーー ▲▲株式会社 営業部 山田太郎 TEL:03-1234-5678 E-mail:taro.yamada@xxxx.com ーーーーー
不可能な業務依頼を断る場合コピーする編集する件名:ご依頼件について ○○株式会社 営業部 △△様 いつも大変お世話になっております。▲▲株式会社の山田です。 このたびは弊社への業務依頼をご検討いただき、ありがとうございます。 誠に申し訳ございませんが、弊社では現在のリソースの関係上、いただいたご依頼の一部を担当いたしかねます。 他社様にて対応可能な領域かと存じますので、ご検討いただければ幸いです。 ご期待に添えず心苦しい限りではございますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。 ーーーーー ▲▲株式会社 山田太郎 ーーーーー
「恐れ入りますが、その点についてはこちらで対応しかねます。大変申し訳ございません。」
「あいにく担当部署の業務範囲外となっており、私どもでは対応いたしかねます。申し訳ございません。」
「誠に恐縮ですが、弊社ポリシーに反するため対応いたしかねます。ご理解いただければ幸いです。」
電話や対面で伝える場合は、声のトーンや言い方も重要です。フラットに伝えてしまうと冷たく感じられる恐れがあるため、申し訳ないという気持ちを込めて柔らかく話すようにしましょう。
「いたしかねます」も「できかねます」とほぼ同等の意味を持つ敬語表現です。「いたす」という謙譲語と「かねる」が合わさった形で、「私が(私どもが)~することができない」の意味になります。「できかねます」よりもさらに丁寧な印象を与えるケースが多いです。
「難しいです」や「厳しいです」はビジネスシーンでも使われる表現ですが、敬語としてはややカジュアルに響きます。取引先や上司など、相手にしっかりと礼を尽くしたい場合には「できかねます」の方が望ましい場合が多いです。しかし、相手との関係や場面によっては「難しいです」「厳しいです」の方が率直でわかりやすいこともあります。
「要望に添う=要望をかなえる」ことができない場合に使われる定型表現です。メールなどのビジネス文書においては「ご要望に添いかねます」「ご期待に添いかねます」という形で、礼儀正しく断りを入れるときに頻出します。
「できかねます」は、やや硬めの印象を与える敬語表現であるため、状況によっては「冷たい」「融通が利かない」といったイメージを抱かれないように気を配る必要があります。以下のポイントを押さえておけば、失礼な印象を与えずに活用できます。
「申し訳ございませんが、~できかねます」という表現と「申し訳ございませんが、~いたしかねます」を繰り返し使いすぎると単調に感じられたり、くどい印象を与えたりします。相手に敬意を伝えるための表現は、バリエーションをもたせることが肝心です。
などのクッション言葉を交えながら、丁寧すぎる表現になりすぎないよう適度に調節しましょう。
断りを入れられる側は、どうしてもネガティブな感情を抱きやすいものです。ビジネスで断りを入れる際には、相手の立場・都合を十分に配慮していることが伝わるようにしましょう。そのためにも、謝意や感謝の気持ちを伝えるフレーズを先に入れておくと効果的です。
このように前置きで相手を肯定し、その上で苦渋の選択として「できかねます」を使用すると、相手の理解を得やすくなります。
「断り」という行為自体はネガティブなものですが、相手を配慮しつつ、可能な限りポジティブな要素を盛り込むと、コミュニケーションとしては良好になります。たとえば以下のような工夫があります。
断るだけでなく、相手の課題を解決するための代案や提案を示すことで、相手にとって「またこの人に相談してみたい」と思ってもらえる可能性が高まります。
「できかねます」は断りの表現なので、同時に謝罪の意を伝えるのは基本と言えます。ビジネスシーンでよく使われる謝罪表現には以下のようなものがあります。
組み合わせ例:
このように、謝罪表現をうまく加えることで、断りの冷たさを和らげることができます。
「できかねます」をそのまま英語に直訳すると、「We are not able to do that.」や「We cannot fulfill your request.」といった形になりますが、英語のビジネスメールで断る場合、日本語の「できかねます」ほどの丁寧なニュアンスは伝わりにくいかもしれません。丁寧に断るのであれば、以下のように表現するのが一般的です。
また、海外のビジネスシーンでは日本ほど礼儀表現のバリエーションは多くないため、適度にシンプルな表現で伝えつつ、相手が理解しやすい理由を添えることが大切です。
こうした例を踏まえると、「できかねます」は単なる断り文句としてだけでなく、相手をできる限りサポートしようとする姿勢を同時に示す形で使うのがベストといえます。
「できかねます」はビジネスにおいて丁寧に断るための定番フレーズですが、その丁寧さゆえに正しく理解・活用しないと冷たく感じられたり、相手を不快にさせてしまったりする可能性があります。以下のポイントを押さえて、適切に使いこなしましょう。
ビジネスでは一度のやり取りが大きな評価に直結する場合もあります。特に「断り」の場面では、相手に配慮した行動や言葉遣いこそが信頼を築く土台となります。ぜひ本記事で学んだことを活用し、ビジネスシーンで「できかねます」を効果的に使ってみてください。相手を思いやりながらも、しっかりと自分や自社の立場を守ることができる表現として、「できかねます」は非常に有用です。
断りを入れることは誰しもが気を遣うシーンですが、「できかねます」というフレーズをうまく使いこなし、相手にも自分にもメリットのあるコミュニケーションを図っていきましょう。