ビジネスシーンにおいて、丁寧な言葉遣いは相手との信頼関係を築くうえで欠かせません。普段の会話やメール、打ち合わせ、プレゼンなど、いたるところで敬語を使う場面があるでしょう。そのなかでも「伺いたいと思います」というフレーズは、相談や質問をしたい旨を相手に伝える際に用いられることが多い表現です。とても丁寧な印象を与えられる一方、誤用や過剰敬語になりやすい面もあります。本記事では、この「伺いたいと思います」の正しい使い方や意味、また類似表現との使い分けなどを徹底解説します。
目次
「伺いたいと思います」は、「伺う(うかがう)」と「~たいと思います」という2つの要素から成り立つ表現です。
「伺う」は「聞く」「訪ねる」「訪問する」という意味の謙譲語(けんじょうご)にあたります。本来、動作主体である自分がへりくだることで、相手を立てる表現です。たとえば「お話を伺う」「ご意見を伺う」というように、「相手の話を聞くこと」に対して謙譲を示す場合に多用されます。また、自分が相手のオフィスに訪問する場面などでは「御社に伺う」という言い回しで「訪問する」の意味として用いられます。
「~たいと思います」は「~したい」という意思を、さらに丁寧なニュアンスで表現する際に使われる言い回しです。単に「~したい」というよりも、遠回しに希望・意向を伝えることで相手に対して柔らかい印象を与えます。
これらを組み合わせた「伺いたいと思います」は、「相手の話をお聞きしたいと思います」や「相手のところへ訪問したいと思います」という意味合いを持つ、大変丁寧なフレーズなのです。
ビジネスメールや会議での発言、電話でのやり取りなど、ビジネスの様々なシチュエーションで「伺いたいと思います」は登場します。以下のようなケースが典型例です。
相手の考えや意見を聞きたいとき
相手のスケジュールや都合を尋ねたいとき
相手に直接訪問したい意向を示すとき
いずれのパターンも、「自分が相手に対して質問や要望をする」 という構造を持ち、そこに丁寧な言い回しを加味しているという点が共通しています。
敬語というと「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」があり、使い分けが複雑だと感じる方も多いでしょう。「伺う」は謙譲語なので、自分の行動をへりくだって言う際に使うのが基本です。たとえば「私があなたに意見を伺う」というように、自分 → 相手への行為 を表すときに自然な形になります。
ただし、「伺いたいと思います」は丁寧さゆえにやや婉曲(えんきょく)な印象を与えることも否めません。明確に「お聞きしたいです」と伝えたほうが誤解を防げる場面もあります。相手との関係性や場面に応じて、言い回しを使い分けるように心がけましょう。
「伺いたいと思います」は、いわゆる「過剰敬語」になりやすい側面も持っています。また、敬語が重なりすぎてしまう二重敬語や、言葉が冗長になりがちなど、いくつかの注意点が存在します。
ビジネス文書やメールであまりにも丁寧な表現を連発すると、かえって読みにくかったり、相手に堅苦しい印象を与えてしまうことがあります。特に、「ご意見を伺いたいと思いますが、よろしかったでしょうか?」のように、過剰に丁寧なフレーズがいくつも続いてしまうと、本来伝えたい内容が分かりづらくなることがあります。
「伺う」はすでに謙譲語表現のため、「お伺いさせていただく」は過剰敬語になる可能性があります。「伺います」「お伺いいたします」で十分に丁寧です。
「伺いたいと思います」は、やや遠回しな表現でもあります。カジュアルな場面では「お聞きしたいです」と言ったほうが分かりやすい場合もあるでしょう。一方、取引先や上司など改まった相手に対しては、「伺いたいと思います」のように婉曲的な表現が好まれるケースもあります。相手との関係性やビジネスシーンの状況に合わせて使い分けることが大切です。
「伺いたいと思います」と言っただけでは、何をどうしてほしいのか、相手が曖昧に受け取ってしまう可能性があります。たとえば「今後の方針について伺いたいと思います」と言うだけでなく、「今後の方針として、A案とB案のどちらを進めるべきか、ご意見を伺いたいと思います」 のように、目的や聞きたい内容を具体的に述べることで、よりスムーズなコミュニケーションに繋がります。
「伺う」の代わりに「尋ねる(たずねる)」を用いるケースです。こちらも謙譲表現の一種として用いられることが多いですが、「伺う」よりややカジュアルに響く場合があります。
例文
「存じます」は「思います」のかしこまった言い方です。「~と思います」よりさらに畏まった印象を与えるため、相手によっては堅すぎると感じられることもありますが、しっかりと敬意を払いたいシーンでは有力な選択肢となります。
例文
「伺う」のように直接相手に「聞く」という意図を示すのではなく、「ご意見をいただく」 という形で相手にアクションを促す表現です。やや柔らかく聞こえ、強い依頼感が薄れるため、使いやすいフレーズとして多くのビジネスパーソンが取り入れています。
例文
○○株式会社
△△部 □□様
平素より大変お世話になっております。
▲▲株式会社の山田と申します。
このたび、新商品発売にあたりまして、そちらのサービス仕様につきまして
詳細を伺いたいと思い、ご連絡を差し上げました。
大変お忙しいところ恐れ入りますが、
以下の点につきましてご教示いただけますと幸いです。
1. サービス導入までの具体的なフロー
2. 導入後のサポート体制
お手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願いいたします。
――――――――――――――
▲▲株式会社 マーケティング部
山田 太郎
Email: xxxx@example.com
Tel: 03-xxxx-xxxx
――――――――――――――
上原部長
お疲れさまです。営業部の山田です。
先ほどご指示いただいた件につきまして、
概略の調査結果をまとめましたのでご報告いたします。
なお、詳細に関してさらにデータの分析が必要なため、
今後の進め方について部長のお考えを伺いたいと思います。
お忙しいところ恐れ入りますが、
お手すきの際にご教示いただけますと幸いです。
以上、取り急ぎご連絡まで
よろしくお願いいたします。
○○株式会社
営業部 □□様
いつも大変お世話になっております。
▲▲株式会社の山田でございます。
先日ご提案いたしましたプロモーション企画につきまして、
ご要望などを直接伺いたいと思っております。
つきましては、ご都合をお伺いしたうえで、
来週中に打ち合わせのお時間を頂戴したく存じます。
候補日をいくつか挙げさせていただきましたので、
ご都合の合うお日にちをお知らせいただけますと幸いです。
・4月◯日(〇) 10:00~12:00
・4月△日(△) 13:00~15:00
・4月×日(×) 終日可
どうぞよろしくお願いいたします。
相手への敬意を伝えられる
「伺う」は謙譲語の代表格ともいえる単語であり、相手を敬う姿勢を表すことができます。
自分の要望を柔らかく伝えられる
直接的な「~したい」という言い方ではなく、「~と思います」という婉曲的な表現を加えることで、依頼や質問が丁寧に聞こえます。
ビジネスシーンにふさわしい格式を保てる
カジュアルな場面ではなく、正式なビジネスの場面や公的な場での言葉遣いとしても安心して使えるため、多くのシーンで汎用性が高い表現です。
「伺う」は謙譲語であるため、さらに「お~させていただく」を重ねると過度にへりくだりすぎ、くどい印象を与えます。例えば「ご意見をお伺いさせていただきたいと思います」は「ご意見を伺いたいと思います」で十分に丁寧です。特にビジネス文書では簡潔な文章が好まれるため、二重敬語になっていないか常に意識して修正するようにしましょう。
「聞く」という動詞自体は謙譲語ではありません。「相手が話す」行為に対して敬意を払うなら「お話をうかがう」という表現を使い、自分が相手の話を頂戴するという形を示すのが望ましいです。「聞かせていただく」というのも間違いではありませんが、文章全体のバランスや、相手が本当に話を“聞かせてくれる”シチュエーションかどうかを考慮して使う必要があります。
「伺ってもよろしいでしょうか?」もまた、相手に許可を得る表現としてよく使われます。場合によっては「伺いたいと思います」とどちらを使うか迷うことがあるかもしれません。
というように、状況によって使い分けると分かりやすいでしょう。
目的をはっきり伝える
「何について」「なぜ質問や訪問をしたいのか」という点を相手に伝えることで、誤解が生じにくくなります。
過剰な丁寧語を重ねない
先述のように「お伺いさせていただきたいと思います」などの二重敬語は避け、スッキリとした文章を目指しましょう。
相手の反応や予定を配慮する一言を添える
「もしお時間がありましたら」「ご都合が合いましたら」というフレーズを加えると、相手への配慮を示すことができます。
必ず具体性を盛り込む
「いつ伺いたいのか」「何を伺いたいのか」を明示することで、相手に対応してもらいやすくなります。
「伺いたいと思います」は、ビジネスシーンにおいて相手に対する敬意を示すために非常に便利な表現です。丁寧さを重んじる日本のビジネス文化では多用される一方で、以下の点を押さえておきましょう。
ビジネスパーソンとしては、敬語を上手に使い分ける力は信頼を得る大きな武器になります。シチュエーションによって「伺いたいと思います」を使い分け、相手に失礼なく、しかしスムーズにコミュニケーションが進むよう常に意識すると良いでしょう。どのような言葉遣いでも、相手への敬意と配慮を込めることが何より大切です。ぜひ、今回ご紹介したポイントを参考にしてみてください。