「お足元の悪い中(おあしもとのわるいなか)」とは、主にビジネスシーンやフォーマルな場面で用いられる表現です。最も一般的には、雨や雪などの天候不良、あるいは道の凍結、災害級の大雨などによって移動がしにくい状況を指すときに、「わざわざ来ていただきありがとうございます」という相手への感謝やお礼の意味を込めて使われます。
このフレーズには、「悪天候や路面の悪さにもかかわらず来ていただいたことへの感謝と配慮」が含まれています。挨拶の冒頭や会議の冒頭、メールの冒頭に入れることで、相手に対する敬意を表すことができるのです。近年はリモート会議が増えたこともあり、直接移動が伴うシーンは減少傾向にあるかもしれませんが、それでも対面の打ち合わせや出社、イベント来場など、移動が前提となる場面は残っています。その際に相手の労をねぎらい、お礼の気持ちを伝える表現として根強く使われているのが「お足元の悪い中」です。
この言葉は単に天候に関してだけでなく、「夕方や夜間に来場いただいた」「お忙しい中を割いていただいた」という広義の意味で用いられる場合もあります。しかし正確には、やはり道中のコンディションが良くないケースを指して使われることが多い点を押さえておきましょう。
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雨が降っている日や台風シーズンなど、悪天候が想定される時期の会議やセミナーでは、司会者や主催者が冒頭で「本日はお足元の悪い中ご参加いただき、誠にありがとうございます」と述べるのが典型的なパターンです。これにより、参加者の労力に対して感謝を表すことができます。
ビジネスメールでも、対面での打ち合わせ予定がある相手に対し、事前・事後で「お足元の悪い中、弊社までお越しいただき、ありがとうございました」と書くケースがあります。ただし、相手に送るタイミングや文脈を誤ると、「そんなに酷い天候ではなかった」というニュアンスを抱かせてしまうこともあるため、本当に天候などの影響で移動が困難であった状況なのかを見極める必要があります。
例文
○○株式会社 ○○様 いつも大変お世話になっております。△△株式会社の□□です。 先日はお足元の悪い中、弊社セミナーにご参加いただき、誠にありがとうございました。
例文
○○株式会社 ○○様 お世話になっております。△△の□□です。 本日はお足元の悪い中、弊社オフィスまでお越しいただき、ありがとうございました。 お忙しいところ大変感謝しております。
いずれも感謝の気持ちを端的に伝えると同時に、「悪天候にもかかわらずご足労いただきありがとう」という配慮が表れているのが分かります。
会社宛てにお礼状を出す場合も、「お足元の悪い中~」というフレーズは有効です。ただし、あまりにも形式ばった印象を与えすぎないよう、宛名や状況に応じて少し文章をアレンジすると良いでしょう。
例文
「このたびはお足元の悪い中、弊社のイベントにご出席いただき誠にありがとうございました。皆様の貴重なお時間を頂戴できましたこと、改めて御礼申し上げます。」
最近では、SNSやブログなどでイベントレポートを発信する企業や個人も少なくありません。悪天候にもかかわらず盛況だったイベントの報告や、参加者へのお礼を伝える際に「お足元の悪い中ご来場いただき…」という表現を使うこともあります。ただしSNSはビジネス用途でもややカジュアルな文体になることが多いので、相手との距離感を踏まえながら書くとよいでしょう。
天候だけでなく、忙しい中時間を割いてもらった点を強調する場合には「ご多忙の折にもかかわらず、ありがとうございます」という表現が使われます。似たようなニュアンスで「ご多用のところ恐れ入りますが」といったバリエーションも存在します。天候ではなく相手の忙しさを配慮する言い方です。
移動距離が長いことを配慮したい場合は、「遠方よりご足労いただき、誠にありがとうございます」と表現します。距離をクローズアップすることで、相手が遠いところからわざわざ来てくれた点に感謝を伝えることができます。
こちらはストレートに天候に触れる言い方です。前置きとして、「本日はあいにくの天候でしたが、ご来場くださりありがとうございました」という形もよく使われます。加えて「お忙しい中」を組み合わせ「本日はあいにくの天候にもかかわらず、お忙しい中ご来場いただき、誠にありがとうございました」としても問題ありません。
「お足元の悪い中」というフレーズは、日本語特有の丁寧表現である「お~+名詞+の+悪い」という形を取っています。ここで疑問になるのが、なぜ「足元」と言うのか、という点です。
そもそも「足元」という言葉は「足先・足下」のことであり、歩行や移動を連想させます。天候が悪いと、雨で地面がぬかるんだり、雪や凍結で滑りやすくなったりと、物理的に「足元」への負担が大きくなります。そうした移動におけるリスクを示唆しているのです。また道路が悪い状態を総称して「足元が悪い」と言い表すこともあります。
日本語の敬語表現には、相手をいたわり、気遣う姿勢を示す言葉が多数あります。「お足元の悪い中」のように、わざわざ相手の移動環境を想像して感謝を述べる点は日本的な配慮・おもてなしの心とも言えます。このように「足元」という具体的な身体の部分を通して、環境の悪さを象徴的に表すのが特徴です。
ビジネスシーンには、クッション言葉と呼ばれる言い回しがあります。これは依頼・断り・お礼などの前に付け加えることで、相手への印象を柔らかくする効果があるフレーズのことです。「お足元の悪い中」という表現も、このクッション言葉としての役割を果たします。
上記のようにフレーズを挟むことで、相手が「移動の手間をかけている」と認識していることを示し、より丁寧な印象を与えられます。ビジネスパートナーや取引先とのコミュニケーションでは、こうした細やかな気遣いが信頼関係を築く一助となります。
「お足元の悪い中」はビジネスに限らず、冠婚葬祭などのフォーマルな場面でも使われることがあります。結婚式や葬儀、法事の案内や当日の挨拶でも、「本日はお足元の悪い中、皆様お集まりいただきまして誠にありがとうございます」という言い方をよく耳にします。
また、学校関係のイベント(入学式・卒業式・学校説明会など)でも使われることがあります。ただし、あまりカジュアルな仲間内の集まりや家族同士の会話では用いにくい表現です。あくまで丁寧でフォーマルなニュアンスが求められる場面で使用すると自然に聞こえます。
先述のとおり、大して天候が悪くないのに「お足元の悪い中…」と口にすると、「そうでもないよ」「大げさだな」と思われてしまう可能性があります。特に季節や地域によっては、天候が安定している日が続くこともあるので、本当に道中が大変そうかどうかを見極めることが大切です。
例えば、スピーチやメールの冒頭・中盤・結びにまで「お足元の悪い中…」を連発すると、くどく感じられることがあります。最初に一度だけ使用して感謝の気持ちを述べ、その後は別の敬意表現で補うほうが洗練された印象を与えます。
非常に口語的かつ上から目線に聞こえてしまう表現の一例として、「お足元が悪いのに来てくださってすみません」などがあります。一見丁寧にも見えますが、前文が「すみません」に続いているため、相手が来てくれたことを謝罪しているような印象になる可能性があります。本来は感謝がメインですから、「ありがとうございます」を軸に言い回しを考えるとよいでしょう。
「お足元の悪い中」という表現は、雨や雪、凍結など移動が困難な状況下で、わざわざ来訪してくださった方に対する感謝や敬意を示すために用いられる相手を思いやるための日本語です。そのため、本来は相手への労いの気持ちを表すポジティブな意味合いがあり、差別的な意図は含まれていません。とはいえ、言葉の使われ方や受け取り方は時代や個人の感性に左右されるため、古風な表現や過剰な気遣いと捉える意見も一部には存在します。実際のビジネスシーンやフォーマルな場面で広く使われていることから、一般的には礼儀正しい挨拶として認識され、差別表現と判断する理由はありません。
「お足元が悪い中」を英語で表現すると以下が適切です
どちらの表現も、直訳すると「悪天候にもかかわらず」となり、文脈に応じて「悪い天気にも関わらず」などと訳すことができます。基本的に意味は同じですが、”in spite of” のほうがやや口語的な印象を与える場合もあります。
「お足元の悪い中」は、悪天候や道の状態が悪い状況下で来訪者への感謝や気遣いを示す表現です。ビジネスやフォーマルな場面で用いられる際、相手への敬意や労いの気持ちを端的に伝える効果があり、全体の雰囲気や信頼関係の向上に寄与します。
ただし、実際に天候が悪い場合に限定して使用し、必要以上に多用しないことが重要です。また、「ご足労いただき」や「ご多忙の折にもかかわらず」など、類似表現とうまく使い分けることで、より状況に応じた適切な表現が可能となります。こうした細やかな気遣いの一言が、対面での会議やセミナー、イベントなどにおいて、相手に配慮が伝わる大切なポイントとなります。