「貴重なお時間をいただき」という表現は、ビジネスメールや会議、商談など、あらゆるビジネスシーンでよく使われる定型的な挨拶・感謝表現の一つです。忙しい中、相手が時間を割いてくれることを敬い、そのことに対する感謝の意を示すときに用いられます。しかし、このフレーズが正しく使われていないケースも多く、あるいは「よく使われるけれど実際のニュアンスがよくわからない」と感じる方もいます。
本記事では「貴重なお時間をいただき」の正しい使い方や注意点、言い換え表現、メール・面談時の具体例などを詳しく解説します。何気なく使いがちなビジネス表現だからこそ、改めて意味や使い方をおさえれば、ビジネス上でより円滑なコミュニケーションを図ることができるでしょう。
目次
「貴重なお時間をいただき」は、相手の時間を割いてもらうことに対して、「その時間はあなたにとって価値がある=貴重だ」という意識を示しつつ、その貴重なものを受け取った(=いただいた)ことに対する感謝や敬意の念を表す言葉です。日本語特有の敬語表現や丁寧表現が組み合わさり、ビジネスシーンで多用されるフレーズとなっています。
「貴重な」は「大切な」「重要な」といった意味を持ち、相手の時間に対して「とても重要な資源である」と認識していることを表現しています。
「いただく」は「もらう」の謙譲語にあたります。「相手からもらう」という行為に対する、話し手のへりくだった態度を示しています。
このように、どんな場面でも便利に使えるあいさつ表現として重宝されます。
ビジネスメールでよく見られる「貴重なお時間をいただき」の使用例をいくつか紹介します。
件名:ミーティング日程のご相談
◯◯株式会社 営業部 ◯◯様
お世話になっております。△△株式会社の□□です。
先日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。
お忙しい中、弊社の新サービスについてご検討いただけるとのことで、
引き続きご提案内容を詰めてまいります。
つきましては、次回のミーティング日程についてご相談させていただきたくご連絡いたしました。
〜(以下略)〜
ポイント
挨拶文の後に「貴重なお時間をいただきありがとうございました」という感謝の一文を入れることで、前回対応してくれた相手への敬意を示すことができます。
件名:セミナーご参加の御礼
◯◯株式会社 〇〇部 △△様
いつもお世話になっております。□□株式会社の✕✕です。
先日は弊社主催セミナーにご参加いただき、誠にありがとうございます。
貴重なお時間をいただき、ご多忙のなか足を運んでくださったことを心より感謝申し上げます。
セミナー内容に関して、ご不明点やご意見がございましたら、
お気軽にお知らせいただければ幸いです。
〜(以下略)〜
ポイント
セミナー参加者にお礼メールを送る場合、忙しい中でも足を運んでもらったことへの謝意を丁寧に伝えるために「貴重なお時間をいただき」を活用しています。
会議や面談で直接口頭で伝える場合も、同様に「貴重なお時間をいただきありがとうございます」という挨拶は有効です。
開始時の挨拶例
「本日はお忙しいところ、貴重なお時間をいただきありがとうございます。それでは早速、議題に入らせていただきます。」
終了時の挨拶例
「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。今後のステップにつきましては、後ほどメールにて改めてご連絡させていただきます。」
特に会議や面談は、全員が時間を合わせる必要があり、相手の労力もかかっています。その場でお礼の言葉を述べることで、相手への敬意と感謝がきちんと伝わりやすくなるでしょう。
「貴重なお時間をいただき」は確かに便利なフレーズですが、メールや会議の中で過度に繰り返すと、かえって不自然に見えることがあります。何度も連呼すると「形だけの言い回し」「定型句でしか話せない人」という印象を与える可能性があるため、適度に使うことが大切です。
日本語のビジネスメールでは、「貴重なお時間を割いていただき」「ご多忙の折、お時間を作っていただき」というように、相手の時間をもらうことを当然視する形で書かれているケースがあります。しかし、本来は「もしお時間をいただければ幸いです」といった丁重なお願いの形をとるほうが、相手に柔らかく依頼する印象を与えられます。
「貴重なお時間をいただき」は、自分が目上の人や取引先に対して用いる謙譲表現です。一方で、自分の部下や後輩に使うと、不自然な印象を与える場合があります。立場によっては「貴重なお時間をとってくれてありがとう」のような言い回しにしたほうがスムーズなケースもあるため、相手の立場やシチュエーションを正しく見極めて表現を変える工夫が必要です。
ビジネスコミュニケーションでは、同じような意味を持つ表現をいくつか知っておくと便利です。相手との関係性や状況に応じて、言い回しを変えることで文章に変化を持たせることができます。
相手が多忙であることを認識したうえで依頼をする際の表現です。メールや電話の冒頭などで多用されます。たとえば、「お忙しいところを恐れ入りますが、◯◯についてご相談させていただけますでしょうか」のように用いると、相手への配慮を示した自然な文章になります。
「貴重なお時間をいただき」に比べてやや直接的な表現で、「わざわざ時間を作ってもらった」というニュアンスが強調されます。相手の労力に対して感謝を示したいときや、申し訳ない気持ちを表現したいときに適切です。
「ご多用中」とは「お忙しい状況であること」の丁寧な言い方です。「ご多用中のところ恐れ入りますが…」と続けることで、相手のスケジュールが詰まっていることを認識している姿勢を示し、頼みごとをするハードルを少し下げる効果があります。
「貴重なお時間をいただき」と意味合いは近いですが、少しカジュアルな印象になります。相手との距離感がそこまで遠くない場合や、すでに何度も同じ表現を繰り返している場合に使い分けると良いでしょう。
一般的には、「貴重なお時間をいただきありがとうございます」のように、最も丁寧で敬意のある言葉を使います。文頭に「いつもお世話になっております」といったビジネス挨拶を添え、締めの部分にも「何卒よろしくお願いいたします」などの定型フレーズを入れると、より整った印象を与えられます。
同僚や社内のメンバーに対しては、「貴重なお時間をいただき」はやや硬すぎると感じられることもあるため、もう少しフランクな表現を混ぜても良い場合があります。ただし、社内でも目上の人や他部署の上長など、あまり親しくない相手には丁寧な表現を意識しましょう。例えば「お忙しいところ申し訳ありませんが、お時間を少し頂戴できますでしょうか」など、少し柔らかな表現を織り交ぜるのがコツです。
顧客に対しては、基本的に「貴重なお時間をいただき」など、謙譲表現で失礼のない文章を使う方が望ましいです。特に新規の取引先や、まだ関係が構築されていない段階の場合は、ビジネスマナーの丁寧さが今後の関係性を左右することもあるため、過不足なく敬意を伝えることが重要となります。
ビジネスにおいて、相手の時間を尊重する姿勢は非常に重要です。「忙しい中、私に時間を割いてくれること」=「相手は労力を割いてくれている」という意識を忘れずに、しっかり敬意を表すことで、相手からの印象が良くなる可能性が高まります。
「貴重なお時間をいただき」は定型的なビジネス挨拶として広く認識されているため、ある程度フォーマルな場面で使うと、文章や挨拶自体が品のある印象になります。ただし、繰り返し述べたように、多用しすぎると慇懃無礼になってしまう危険もあるので注意が必要です。
相手に対して、「あなたの時間は貴重です」という認識と感謝の姿勢を伝えることは、コミュニケーションをスムーズにする上で効果的です。ビジネスを円滑に進めるためには、相手を尊重し、ありがとうの気持ちをはっきり伝える習慣が大切です。
「貴重なお時間をいただき」というフレーズばかりに頼ってしまうと、メールや会話にワンパターンさが出てしまいます。類似表現や言い換えを適宜使うことで、文章全体にリズムが生まれ、相手からの印象も良くなります。
どんなに丁寧なフレーズを使っていても、相手にとって要領を得ない内容であれば印象は下がります。挨拶フレーズを入れるだけでなく、目的や依頼事項、スケジュールなどを明確に書くことで、時間を割いてくれる相手に配慮した文章が完成します。
「時間をいただきます」は依頼・予告、「ありがとうございます」はすでに時間を使ってくれたことへのお礼です。メールで「お時間をいただきありがとうございます」と書く場合は、すでに相手が協力してくれたことが前提になるため、場面に合った敬語を使えているかを常に意識しましょう。
◯◯株式会社 △△部 ◯◯様
いつもお世話になっております。□□株式会社の✕✕です。
突然のご連絡失礼いたします。
このたびはご相談したい件があり、貴重なお時間をいただきたくメールを差し上げました。
お忙しいとは存じますが、もしお時間を頂戴できましたら大変ありがたく存じます。
〜(以下略)〜
◯◯株式会社 △△部 ◯◯様
お世話になっております。□□株式会社の✕✕です。
先日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございました。
ご意見を踏まえ、提案内容を再度精査してご連絡いたします。
〜(以下略)〜
◯◯株式会社 △△部 ◯◯様
いつも大変お世話になっております。□□株式会社の✕✕です。
来る〇月〇日(〇)に弊社主催のセミナーを開催する運びとなりました。
ご多用のところ大変恐縮ではございますが、ぜひ貴重なお時間をいただきたくご案内申し上げます。
〜(以下略)〜
「貴重なお時間をいただき」は、相手の時間や労力に対する感謝と敬意を伝える、日本独自のビジネス敬語表現です。使い方としては、なぜ相手の時間を割いてもらうのか、どのような協力を期待しているのかを明確にし、文章の冒頭や文末に感謝や配慮の言葉を添えることで、誠実さと信頼感を高める狙いがあります。また、取引先、社内の上司や同僚、顧客といった相手の立場に合わせて表現を調整することが求められ、状況に応じた言い換えや類似表現を活用することで、乱用による形骸化を防ぐ工夫も必要です。
こうした配慮を踏まえた上で「貴重なお時間をいただき」を適切に使い分けると、ビジネスメール、会議、商談、セミナー、電話などさまざまな場面で効果的に相手との信頼関係を構築することができ有用な要素となるでしょう。