ビジネスシーンでよく目にする敬語表現のひとつに「ご承知おきください」というフレーズがあります。取引先とのやり取りや社内メールにおいて、少し硬めの敬語を使わなければならない場面では特に使われる機会が多いのではないでしょうか。しかし、「ご承知おきください」は「承知しました」「ご理解いただきたく」など、他にも類似の表現が存在し、誤用や使い分けの悩みが絶えません。本記事では、「ご承知おきください」の正しい意味や使い方、他の表現との違い、注意点などを包括的に解説していきます。ビジネスメールの印象を向上させ、円滑なコミュニケーションを図るためのコツを学んでいきましょう。
目次
「承知」とは、「相手の言葉や事情を理解したうえで、それを受け止める」という意味を持ちます。「承知しました」という形で使われることも多く、ビジネスメールや会話などで相手の依頼や意図を認識した際に用いられます。
「ご承知おきください」は、「相手に対して事前に理解や認識をしておいてほしい」というニュアンスを含む表現です。単に「承知しました」と言うのではなく、「あらかじめわかっておいてください」という丁寧かつ注意喚起に近い言い回しになります。たとえば下記のような場面で用いられます。
このように、「今後こうなる可能性があるから、あらかじめ理解しておいてね」という意図を含むため、ビジネスでも頻出の表現となっています。
「ご承知おきください」は、やや硬い印象のある敬語です。そのため、主にビジネス文書や公式メール、案内文などで使用されることが多いのが特徴です。ここでは典型的な使用例をいくつか挙げてみます。
例文
「明日予定していた会議ですが、時間が10:00から10:30に変更になりました。ご承知おきください。」
この文章では、「会議の開始時刻が変わる」という事実を相手に知らせ、あらかじめ頭に入れておいてほしいというニュアンスを伝えています。
例文
「システムのメンテナンスに伴い、ログイン方法が一部変更となります。ご迷惑をおかけしますが、ご承知おきください。」
仕様変更や規約改訂のように、利用者や顧客に何らかの影響が及ぶ場合には「ご承知おきください」を用いることで丁寧に注意喚起することができます。
例文
「本日付で部門の配置転換が行われ、担当者が変更になります。今後のご連絡は新担当者へ直接お願いいたします。あらかじめご承知おきください。」
重要な社内連絡や取引先とのやり取りの際に、「こういう変更があるので、忘れずに認識しておいてくださいね」というニュアンスを伝えたい時に有効です。
ビジネスメールでよく見かける言い回しとして「ご了承ください」という表現があります。これは「了解してください」という意味合いを持ち、事前に相手に受け入れてほしい・納得してほしい内容があるときに使われる敬語です。ただし「ご承知おきください」と「ご了承ください」は、微妙にニュアンスが異なります。
両者はしばしば同じタイミングで用いられますが、微妙に伝わる印象が異なります。顧客や取引先に不利益や不便を与えるお知らせの場合は「ご了承ください」が多用されやすい一方、「ご承知おきください」は純粋にお知らせや周知・案内をするときに使われるケースが多いと言えます。
「承知しました」は、相手の要望や意図を確認したうえで「理解しました」「受け付けました」という意味を表す定型フレーズです。メールのやり取りや上司・取引先に対して、指示を受けた際の返事として頻繁に用いられます。
つまり「承知しました」は自分が相手の依頼を理解し、それを受け入れたときの言い方。一方で「ご承知おきください」は、こちらが相手に理解を促す言い方という違いがあります。
敬語表現には微妙なニュアンスや場面選びの難しさがあり、「相手との距離感が近すぎる」「言葉が硬すぎる」「失礼になる」などの問題が起きがちです。「ご承知おきください」も敬語ゆえの注意点が存在します。
「ご承知おきください」は比較的フォーマルで硬い印象を与える言葉です。社内の同僚や親しい取引先には、もう少し柔らかな表現を用いてもいいでしょう。たとえば、「ご承知おきいただければ幸いです」や「ご理解いただければ幸いです」など、クッション表現を加えると相手の受け取り方もやわらかくなります。
目上の方に対して使う際は、言い回しによっては上から目線に聞こえてしまう懸念があります。そのため、「念のためご連絡申し上げます」「ご周知いただけますと幸いです」など、さらに丁寧なフレーズを検討するとよいでしょう。ただし、ケースバイケースなので、あまりにも回りくどい表現よりはシンプルに「ご承知おきください」を使ったほうが伝わりやすい場面もあります。実際に相手との関係性を考慮して表現を選びましょう。
目下の相手や自分より年下の人に対して、過度に敬語を使うと逆に相手が恐縮してしまう可能性があります。社内の後輩や新入社員に連絡する場合など、組織内の上下関係を踏まえた言葉選びを意識しましょう。状況によっては「覚えておいてくださいね」と砕けた形にしたほうがスムーズに伝わることもあります。
同じ「周知」や「理解を求める」行為であっても、ビジネスシーンでは状況や相手との関係性によって適切な語感の表現を選ぶことが大切です。たとえば、クレーム処理や謝罪を伴う連絡の際には「ご了承ください」を使うとクッションになりやすい一方、あまりにも柔らかいと誠意が伝わりにくい場合もあります。
一方で、「ご承知おきください」を頻用しすぎると、文字通り「お知らせ」という語感が強いため、「連絡するだけで終わり」という印象を与える恐れもあります。必要に応じてクッション言葉や補足文を添え、相手に失礼のないよう配慮しましょう。
「ご承知おきください」のような表現を使うのは、多くの場合「重要なお知らせ」や「変更事項の通知」が中心となります。ビジネスメールでは、最初に件名で要点を短く伝え、本文でも最初の数行で概要を示すことが求められます。
このように冒頭で「重要なお知らせ」であることを示すとともに、「あらかじめご承知おきください」というフレーズを添えておくと、相手は「今後変化があるのだな」とすぐに理解できます。
ビジネスメールの本文では、今回の知らせの内容と背景、影響範囲などを明確にまとめましょう。読みやすい箇条書きや見出しを活用しながらポイントを整理すると、相手に伝わりやすくなります。
例:
コピーする編集する【変更内容】
・現在のログイン方式(ID+パスワード)から、二要素認証を追加した新方式に移行
【スケジュール】
・2025年3月1日より一部ユーザーに順次適用
・2025年4月1日までに全ユーザーが新方式へ移行
【ご対応いただくこと】
・初回ログイン時に携帯端末への認証アプリ登録が必要になります
・設定画面にて電話番号とメールアドレスの確認・修正をお願いいたします
結びの文では、必要に応じて相手のアクションを再度促したり、問い合わせ先を案内します。また、相手に対して配慮の姿勢を示す表現を加えると、メール全体の印象が良くなります。
例:
コピーする編集する上記の点につきまして、ご不明点やご質問がございましたら、遠慮なく担当の□□(電話:XXX-XXXX-XXXX)までお問い合わせください。
お手数をおかけしますが、ご承知おきくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
「ご承知おきください」を使う際には、以下のような誤用・誤解のリスクにも注意が必要です。
「このたび弊社規定が改訂される運びとなりました。お忙しいところ恐縮ですが、変更内容をご確認のうえ、ご承知おきくださいますようお願い申し上げます。」
「○月○日付で人事異動があり、新しい担当が△△に代わります。社内の皆さまにはお手数をおかけいたしますが、混乱のないようご承知おきください。」
「平素は格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。このたびサービス提供時間が変更となりますので、ご利用の際はあらかじめご承知おきくださいますようお願い申し上げます。」
「参加者多数の場合は抽選となり、当選者のみにご連絡を差し上げます。あらかじめご承知おきください。」
「ご承知おきください」は、ビジネスにおける連絡・通知の場面で多用される敬語表現のひとつです。あらかじめ相手に理解や認識を求める際に最適であり、「了承してほしい」というよりは「頭に入れておいてほしい」というニュアンスを伝えられます。フォーマル度が高めなので、公式な文書や対外的なアナウンスでも使いやすいメリットがあります。
しかし、敬語であるがゆえに「堅苦しい」「距離を置いている印象を与える」といったデメリットや、他の表現との微妙なニュアンスの違いによる誤用が起こりがちです。状況に応じて「ご了承ください」や「ご理解いただけますよう」「ご周知いただければ幸いです」など、より適切な敬語に置き換えたり、クッション言葉を取り入れたりして調整することを意識しましょう。
ビジネスメールを円滑に進めるためには、ただ敬語を並べるだけでなく、相手に対する「思いやり」や「配慮」が欠かせません。「承知いたしました」と「ご承知おきください」は似て非なる場面で使われる表現です。これらを使いこなし、細やかなコミュニケーションができるようになれば、取引先や社内メンバーとのやり取りもスムーズになるはずです。ぜひ本記事のポイントを活用して、「ご承知おきください」を上手に取り入れてみてください。